あの老舗かつお節、作る時に「カビ」を付ける理由

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作家の村上龍が第一線で活躍する経済人を迎え、ニュースでは伝えない経済の“今”に迫る『カンブリア宮殿』(テレビ東京系列、毎週木曜22:00~)。2月9日は、東京のかつお節メーカー「にんべん」の社長・髙津克幸が時代を生き抜くサバイバル術について語った。

かつお節業界をリードしてきた「にんべん」。この10年、かつお節生産量は毎年のように下がっているが、そんな苦しい状況の中において売上げを維持している。東京・日本橋にある本店には、糸削り、ソフト削り、けずり粉など、さまざまな種類のかつお節が陳列。削りたてが買えるサービスや、削り節の体験コーナーなどもある。

また、人気商品の「つゆの素」は、めんつゆ部門売上げが東京シェアNo.1。高速道路のサービスエリアでも、「だし焼き玉子」(230円)をはじめ、「鰹節専門店のからあげ」(5個入・380円)、「海老かつおまん」(260円)といったかつお節の出汁を味わえるフードコーナーも設置している。今回は、創業318年を迎える"老舗企業"の「にんべん」が、かつお節の消費が落ち込む現状を打破するべく、あらゆる角度から革新に挑むサバイバル術に迫った。

●鰹節の品質にこだわる
「にんべん」が長い歴史を生き抜いてきた理由の一つが、かつお節の品質に関して徹底的にこだわっているという点。あまり知られていないが、かつお節には2ヶ月間、燻製と乾燥を繰り返して作る「荒節」と、そこにカツオブシカビを付け、半年間カビ付けと乾燥を繰り返して作る「枯れ節」の2種類がある。実は、一般に出回っている“削り節”の原料の8割は、短期間で作れる「荒節」だが、「にんべん」は、あえて手間暇のかかる「枯れ節」を使用。静岡県・焼津市にあるかつお節メーカー「山七」が60年以上にわたってにんべんのかつお節を生産している。

「枯れ節」は、表面に付けたカビが内部の水分を吸収。山七の社長・鈴木隆いわく「荒節で22%あった水分量を15%に落とすのでよりおいしくなる」とのこと。他のものよりも、うま味が濃くなるところがポイント。品質の差は“3回のカビ付け”。この手間が繊細な味を生み、多くのプロの料理人たちに認められている所以だ。

さらに、焼津市の「にんべん 大井川事業所」には、品質を守る職人の存在が。物を言うのは目利き力。叩いた時の音を耳で聴き、太陽光に当てて浮かび上がるシルエットでかつお節の中に空洞があるかどうかを目で判断していく。デジタルな時代に何ともアナログな選別法だが、経験を積み重ねてきた職人の熟練の技が、まだまだ必要だという。

●かつお節に触れる機会を増やす
「にんべん」の創業は1699年(元禄12年)。もともと伊勢出身だった初代・髙津伊兵衛(いへえ)が、かつお節などの乾物を売る店を日本橋に開いたのが始まりだ。そんな「にんべん」の300年以上の歴史は、業界の常識を破る革新の連続。例えば、初代の伊平衛はお客と相対で交渉し、販売価格を決める当時の慣習を捨て、どのお客にも同じ値段で販売する「現金掛け値なし」という定価販売を時代に先駆けて導入した。11代目の時代には、天然のかつお出汁を使った「つゆの素」を日本で初めて開発。さらに、酸化しない小分けパックの削り節も「にんべん」が日本で初めて作ったのだ。

そんな先代たちの志は、1996に入社した13代当主の髙津にも受け継がれているようで、彼は次々と独創的なアイデアで“革新”に挑戦。「1杯100円のカップ入りダシの販売店」という、これまでにないスタイルの店「日本橋だし場」を開業。立ち飲みバーのような店内で、味付けしていないかつおの一番だし「かつお節だし」(100円)が楽しめる。好みでしょうゆや塩を足して飲む絶品のだしは大人気。始める前は「お金を取っていいのか」という議論が社内にあったそうだが、料理の素となり、美味しく演出してくれる食材を「若い人にも広く知ってもらえる体験してもらえる“場”が欲しかった」と語る髙津の戦略はズバリ的中した。

「日本橋だし場 はなれ」という店では、「だしスープ膳 鶏団子のポトフ」(950円)を筆頭に、かつお出汁でご飯を炊いている「トマト仕立て海老とあさりのドリア」(1200円)や二杯目はかつお出汁をかけて食べると美味しい「だし炊き込み御膳 鶏とごぼうの炊き込みご飯」(1800円)など、常識にとらわれないメニューを次々と生み出し、幅広い客層に親しまれている。

他にも、かつお節を使ったレシピ本の出版、看板商品の“つゆの素”で作ったみたらしをコーティングした「みたらしバームクーヘン」(1296円)などのスイーツを直営店で販売。少しでも、かつお節に興味を持ってもらえるよう、あの手この手で消費者にアピールしている。

時には小学校を訪問し、子供たちにかつお節の魅力を伝える“特別授業”も展開。精力的に動き回る髙津は「にんべん」について「そもそも老舗とは思っていない。お客様から認めてもらって初めて老舗なので、認められる存在になるためのチャレンジをしていく。そういう姿勢でいたい」と、常に前を見ながらかつお節の新たな可能性を探っている。

この日は他に、「枯れ節」に適したカビ菌(カツオブシカビ)の発見秘話と、その菌をライバル会社に無償で公開したエピソードを紹介。番組の最後には、村上龍がにんべんの「つゆの素」を使ったオリジナル料理を披露した。

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