綾野剛主演 ドラマ『コウノドリ』が支持される理由

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第4話でシリーズ最高の視聴率13.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)という数字を出し、前作同様、高い支持を受けているドラマ『コウノドリ』(TBS系、毎週金曜22:00~)。「出産は奇跡の連続なんだ」というテーマのもと、出産前後にまつわる出来事や人々の心情を非常に丁寧に描き、多くの人の共感を呼んでいる。そんな本作の魅力をひも解いてみたい。

10月13日に、セカンドシーズンの放送が開始された『コウノドリ』。主人公・鴻鳥サクラを演じる綾野剛をはじめ、鴻鳥のライバルであり良き理解者である四宮春樹に扮する星野源、助産師・小松ルミ子役の吉田羊ら、メインキャストがそのまま続投し、期待度が高かったが、クオリティはまったく落ちることなく、これまで丁寧に描かれてきたキャラクター造形も相まって、非常に安定感のあるスタートを切った。

前述したとおり「出産は奇跡の連続なんだ」というテーマは明確だ。妊娠から出産まで、妊婦はもちろん、それを支える周囲の人間、そして産婦人科医、さらに助産師や出産後の新生児科医……と、妊婦だけではなく、“出産”に関わる幅広い人々の思いや心情を、圧倒的なリアリティで描いている。

セカンドシーズンでも、こうした作りは継承されている。第1話では離島での出産や、聴覚障害を持った夫婦の出産、出産後、すぐに復帰を望むキャリアウーマンの出産という3つの話が同時進行する中、妊婦だけではなく、それぞれの夫の妻への距離感も丁寧に描かれていた。第2話では子宮頸部腺がんを患う妊婦が、自身の命とお腹の中の子どもの命という極限の選択に迫られる姿を、真摯に支える夫の心情と共に描かれた。さらに第3話では、産後うつや無痛分娩、第4話ではトーラック(帝王切開後の自然分娩)という題材を通じて、出産という命がけの行為の意味を投げかけている。

中でも、妊娠前にキャリアウーマンとしてバリバリ働いていたものの、出産後は育児と仕事、職場復帰という問題に悩み、産後うつになってしまう高橋メアリージュン演じる彩加には、女性を中心に視聴者から多くの共感が寄せられた。「出産は子どもを産んだら終わりではない」という当たり前であるが、フィクションでは、なかなかスポットが当てられない部分に対して真摯に向き合っていることも、本作の大きな魅力と言えるだろう。

こうした強いメッセージ性がぶれることなく視聴者に伝わる大きな理由が、作り手による徹底したリアリティへのこだわりだ。本シリーズをみている人ならご存知だと思うが、生まれたばかりの赤ちゃんや、NICU(新生児集中治療室)にいる赤ちゃんはCGや人形ではなく、ほぼ本物の赤ちゃんなのだ。この点について、那須田淳プロデューサーは以前「その作品の世界観を象徴するものは徹底的に本物にこだわる」と語っていた。この言葉を借りるなら、本作の世界観の象徴は生まれてくる赤ちゃんである。制作陣はさまざまなリサーチや、病院の産婦人科などのツテで、出産間近な妊婦さんに多数面会し、本物の新生児出演を可能にしたという。

また俳優の演技にもリアリティが追及されている。看護師や助産師チームは、本作クランクイン前に、出産シミュレーターで度重なる練習を行ったという。出産シミュレーターとは、赤ちゃんの出産を疑似体験できるロボットで、陣痛や出産が起こり、赤ちゃんが産道から出てくるところまでを、さまざまなパターンで体験できるものなのだが、吉田をはじめ出演者は、このロボットで何度も練習をしたという。

出産シーンは、各話それほど長い時間ではないが、こうしたことを経験することにより、助産師や産婦人科医としての立ち振る舞いや視線が大きく変わるという。演じるというより馴染ませるというアプローチ方法は、視聴者に植え付けるインパクトをより大きなものにする。それを体現できるだけの俳優たちがそろっているというのも、このドラマの強みだろう。

本作はドキュメンタリーではなくフィクションである以上、そこにはしっかりとしたドラマ性も必要だ。しかし、ドラマ性に重心を置くと職業ものというのは、突っ込みどころが出てくるのも事実。しかし『コウノドリ』はドラマ性とリアリティのバランスが絶妙で、どのエピソードにも「それはちょっと……」と白けてしまう場面がほぼ皆無である点も、他の医療ドラマとは一線を画している。

前シリーズから数えて14話目で、シリーズ最高の視聴率を記録するなど、更なる注目が集まってきている『コウノドリ』。5話目以降からも目が離せない。

(文・磯部正和)

<5話あらすじ>
サクラ(綾野剛)の元に診察に訪れた妊娠27週の妊婦、西山瑞希(篠原ゆき子)。診断の結果、切迫早産の可能性があり急遽入院することに。同じく切迫早産で入院している妊婦、七村ひかるの病室に小松(吉田羊)が瑞希を連れてくる。同じ境遇の2人はすぐに意気投合し仲良くなるが、そんな中、瑞希の赤ちゃんに予測できなかった事態が……。

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