人助けした医師が巻き込まれたのは巧妙な詐欺?それとも?教科書にもなったエピソード

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人助けした医師が巻き込まれたのは巧妙な詐欺?それとも?教科書にもなったエピソード
人助けした医師が巻き込まれたのは巧妙な詐欺?それとも?教科書にもなったエピソード

今年3月、5年前に沖縄で起きたある出来事が来年の教科書に載るとニュースになった。ある青年を信じたことから始まった、沖縄のメディアも巻き込んだこの出来事を再現ドラマで紹介した。

2019年4月、沖縄県那覇市。沖縄出身の脳神経外科・猪野屋博医師は関東の病院に勤務していたが、数年前まで沖縄の病院で働いていたため月に1回程度、自分が手術した患者の様子を診て回っていた。

沖縄での滞在を終えた日、午前の便で北海道へ向かうはずだったが那覇空港に向かう途中、北海道での午前中の仕事がキャンセルになったと知り便を遅らせ、那覇市内の交通機関・ゆいレールに乗車し市内のホテルへ戻ろうとしていた。

すると乗車していた席の向かいで、若い男性が何かを探していた。猪野屋さんがどうしたの?と声をかけると男性は財布を無くしたという。

「今日7時15分の飛行機に乗らないといけなくて」「おじさんのお葬式で」と男性は話し、行き先は与那国島だという。

与那国島への飛行機の便は少なく、本当に困っているように見えたこの男性に猪野屋さんはいくら必要かと尋ねると6万円だといい、彼は工業高校の高校生で実家が与那国島にあるという。そして猪野屋さんは財布から6万円を出し男性に渡した。

猪野屋さんは、男性が大事な人とのお別れに無事に立ち会えていることを心から願いながら、6万円という金額が少しひっかかっていた。沖縄に住む自身の弟に那覇から与那国島まで飛行機でいくらかかるかを聞いてみると、2万円程度だという。

猪野屋さんは不安になり那覇市内の工業高校に連絡。実家が与那国島の学生はいるかと聞くと「そのような生徒はおりませんね」と言われてしまう。嘘をついていたのかと警察に相談するが「まず貸した証拠がないと、動きようがない」という返答。

そして北海道での仕事を終え関東の病院に戻り同僚に話すと、寸借詐欺じゃないかと言われてしまう。寸借詐欺とは、財布を落とした・交通費を忘れたなどと嘘をつき、相手の善意に漬け込んで金銭を騙し取る行為のこと。被害額が少額なので被害届を出さない人も多く、悪質な手口を繰り返す犯人がいるという。「返すつもりだった」などの言い逃れができるため逮捕まで行きつくことが難しい。そのため財布を落としたなどと言う人を見かけたらお金は貸さず交番などへ案内した方が良いのだ。

やはり、あれは詐欺だったのかと思う猪野屋さんだったが、猪野屋さんが困っている人を助けたいと思うきっかけとなる出来事があった。

それはまだ若い頃、海外のスキー場での出来事。営業時間が終わる間際、スキー客がほとんどいなくなった時リフトから落下してしまう。脚を捻挫し、動けなくなった猪野屋さん。日も落ちていき、雪も激しくなり遭難の可能性が出てきた。その時外国人の男性によって助けられたという。その後、お礼を言うと男性はフランス語で「なんでもないよ」と告げ去っていったという。

この命を救われた経験もあり、自分も人の命を一つでも多く救う医者になろうと沢山の患者と向き合い、年間300例以上執刀しているという。

そして人を見る目にも自信があった。あの男性はとても悲しそうに見え、とてもウソをついている気はしなかった。

果たして、あの男性は本当に詐欺をしたのか?

実は彼は本当に与那国島で生まれていた。彼の家は黒毛和牛を放牧、仔牛を売る畜産業を家族で行っていて幼いころから農作業の手伝いをしてきた。そしていつも一緒に作業をしていたのが伯父だった。

将来は与那国島に戻り農作業に使う車や農機具の整備ができるようになりたいと那覇市の沖縄工業高校に入学し、那覇市内の寮で生活していた。

そして伯父が亡くなったと聞かされた時、担任の先生に事情を告げて忌引きにしてもらい、送ってもらった6万円を全て下ろして財布に入れた。平日の早朝便だが当日でも席はあるだろうと予約はしなかった。

早朝、寮を出て始発に乗るため切符を購入。那覇空港駅に着いた時、財布がなくなっていたことに気づく。つまり男性は嘘をついていなかったのだ。

猪野屋さんに6万円を渡してもらったあと、搭乗時間ギリギリで搭乗券を購入。なんとか飛行機に乗れ、葬儀に参列できた。

男性は猪野屋さんに連絡先も名前すら聞いていないことに気が付いた。だが、あんなに親切な人を絶対に裏切れないと父親に話すと「お金は何があっても返さないとダメだ」と怒られたという。果たしてどうやってお金を返すのか?

一方猪野屋さんは、忘れかけていた時同僚から「その子多分、記事になってますよ!」と話しかけられる。それは沖縄タイムスの朝刊に掲載された記事だった。

男性の名前は、崎元颯馬さん。父親が高校の先生に相談。そして先生が知り合いを通じて新聞社に話し、6万円を貸してくれた恩人探しの記事が掲載された。さらに全国で読まれる可能性があるウェブ記事にもなった。

その記事には「嬉しくてほっとしたが飛行機の出発までギリギリでお礼を言って飛び出してしまった。本当に申し訳ない。おかげで葬儀に間に合い伯父にお別れができた。授業で作った自作の文鎮を贈り物として渡したい。そして借りたお金を返しお礼がしたい」と書かれていた。

男性が詐欺師なんかじゃなかったと知ることのできた猪野屋さんは、本当にあの時助けてよかったと思ったという。

記事が出てから1ヶ月後。猪野屋さんが沖縄へ行き、崎元さんと彼の高校で再会することになった。2人は再会し6万円も猪野屋さんのもとに戻った。さらに崎元さんが落とした財布も拾われており、6万円が入ったまま戻ってきたという。

そして今年3月、猪野屋さんと崎元さんのこの出来事は「6万円のご縁」というタイトルで地元沖縄の道徳の教科書に載ることが決まった。

この出来事から5年、崎元さんは現在大学4年生。猪野屋さんと5年ぶりに会うことに。猪野屋さんは「え?崎元君?大人になったね!」と成長に驚き。

そしてこの出来事で、まだ解き明かされていない謎だった、学校に連絡した際に実家が与那国島の学生はいないと言われたことについて聞く。沖縄工業高等学校に在籍していた崎元さん。「沖縄工業高等学校に電話したつもりだけどな」と話す猪野屋さんだが、実は「沖縄高専の方に…」と別の高校に電話していたことを崎元さんが伝え、謎も無事に解決した。

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