細田守監督『バケモノの子』役所広司らがアフレコ収録<出演者コメント全文>

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細田守監督の3年ぶりとなる最新アニメーション映画『バケモノの子』(2015年7月11日公開)の声優キャストを、役所広司、宮崎あおい、染谷将太、広瀬すず、大泉洋、リリー・フランキー、津川雅彦らが務める。

本作は、バケモノと少年の奇妙な師弟関係を軸に、バケモノたちの棲む異世界「渋天街(じゅうてんがい)」での修行と冒険、リアルな渋谷を舞台にした壮大なアクション、そして親子の絆やヒロインとの淡い恋愛などを描いた冒険活劇。役所ら出演者が、アフレコ終了後の感想などを語った。


<役所広司:熊徹>
バケモノのような人間は演じたことがありますが、本当のバケモノ役は今回が初めてだったので良い経験でした。
細田監督とは初めての仕事でしたが、まず絵コンテを読ませて頂きました。とても素晴らしかったです。監督の中ではもう既に映画が全てできている。本当にすごいと思いました。それに、路地から入ると別の世界が現れるという渋谷が舞台で、そこでバケモノたちが暮らしているという、その発想が素晴らしい。【九太】が初めてバケモノの世界に入っていくシーンはとてもわくわくしました。世界が違う者たちが一緒に描かれることが、この物語をより複雑で深いものにしているように思います。
僕は必死で慣れないアフレコをやりましたが、宮崎あおいちゃんにしろ、染谷将太くんにしろ、広瀬すずちゃんにしろ、やはりアニメで育った世代は本当にうまい。
彼らを見ていると、声がキャラクターの人格にぴったりハマっている感じがしますが、自分でやると何か足りないものがある気がして、反省、反省の繰り返しでした。
【熊徹】というのは、大変だろうけど人生で一回は出会いたい男ですね。こういう人に出会わない人生も幸せかもしれないけど、出会っちゃうと非常に豊かな人生になるんじゃないでしょうか。この作品は大人が観なければいけない映画だと思います。【九太】をとりまくバケモノたちの存在を通して「いい大人に出逢えば、いい子供が育つ」ということを考えました。【九太】にとっては全ての大人の比較基準は【熊徹】です。我々にとって親が絶対的にそうであるように。また【九太】の面倒をみることによって、【熊徹】が育ててもらっているという側面もある。作品を観ていると、人間の方がバケモノより恐ろしい生き物に見えてきます。

<宮崎あおい:九太(少年期)>
細田監督の作品は前作『おおかみこどもの雨と雪』に続き2作目ですが、アフレコ前日は緊張で気持ちが悪くなり、初日の最初の1時間はずっと不安でドキドキしていました。大好きな細田監督の作品にまた呼んで頂けてすごく嬉しい反面、【九太】という少年の声を演じると聞いて、どんな声を出せばいいのだろうととても心配でした。さらに、成長した【九太】を染谷さんが演じると伺って、プレッシャーを感じました。アフレコをはじめていくうちに、役所さん演じる【熊徹】との掛け合いや、罵り合いのシーンが増えていくにつれ、だんだん男の子の声が掴めてきて、そこからは楽しさが増してきました。
役所さんの【熊徹】は本当にチャーミングで魅力的。今まで何度もご一緒させて頂いている役所さんに、「ばかやろう」なんて言えてしまうのは、この【九太】という役ならではですよね(笑)。役所さんと普段なら絶対使わない憎まれ口での掛け合いが出来て、これが声のお仕事ならではの醍醐味だな、と思いました。
細田監督作品の魅力は、非現実的な設定ではあっても、必ず共感できるものや、感情移入できるものがあるところです。作品全体に優しい雰囲気が漂っていて、それはまさに監督の人となりそのものだと思います。細田監督から「女性が男の子の声をやる艶っぽさがありつつ、ちゃんと男の子の声になっていて凄く良いです」と言って頂いて、本当に安心しました。

<染谷将太:九太(青年期)>
細田監督の作品は昔から大好きで、細田監督の前作『おおかみこどもの雨と雪』が初めての声の仕事でその時は数シーンの出演でしたので、今回このような役を頂いて嬉しかったです。アフレコは尺が決まっていて芝居も自分のリズムとはいかないですし、毎シーン模索しながら進めていました。でも細田監督が的確な指示を出してくださって、その中で見えてくるものを理解しようとしました。
細田監督の映画にある、たくさんの人たちのあいだに渦巻く感情の力の表現は、当たり前ですが、実写映画にはできないことです。且つ、とても繊細であり、心躍るエンタテインメントにもなっている。全てを兼ね備えた映画という印象です。『バケモノの子』は少年の成長ものというストーリーに加え、アクションもすごい。観たことのない映像がつまっていたので、鳥肌がたちました。
まっすぐであり、ピュアな【九太】はある種健全な闇も持っていて、健全であるからこそ周りの人を包んでしまう力を持っている男の子。とても好きなキャラクターです。
【九太】は特種な環境で育ったので、人間の世界とバケモノの世界を行き来する時に浦島太郎的な「ズレ」を常に意識して演じました。ただ、その「ズレ」はきっと、【九太】位の年齢では誰しも感じることなのではないかとも思います。その「ズレ」のなかで自分なりに答えを見つけていくことで人は成長するんだと、今回演じながら学びました。

<広瀬すず:楓>
声のお仕事は初めてでしたが、会話の尺も決まっているし、自分のニュアンスと絵の表情が微妙に違ったりもするので難しかったです。大きい声を出しているつもりでも、絵とあわせて見るとそうでもなかったりするので、思い切って、より強調して声を出すようにしました。また、台詞以外の吐息やアドリブのリアクションなど、絵にあわせないと違和感が生まれてしまうので、そういったことを考えながらお芝居をしたのは今までにない経験です。アフレコ初日、「人間ってこんなに緊張するんだ」というくらい緊張して、とても焦っていました。共演者の皆さんのアフレコを見学させて頂いて、ずっと勉強していました。【楓】は自分よりも低く堂々とした声の持ち主というイメージ。なかなかうまく表現できず、不安がありましたが、せっかくやらせて頂けるのだから、ちゃんと【楓】を自分のイメージを越えたものにしたいというプライドを持って挑みました。
非現実的な世界観だからこそ、役者さんたちがリアルに近づけることで感動を与えることができる、と今回の経験から学びました。人間の【九太】とバケモノの【熊徹】が本当の親子のようになっていくのも、非現実的な中にもリアルな愛情が描かれていて、これが細田監督の世界観なんだと思いました。監督自身の愛情がそのまま画面に写っている気がします。

<津川雅彦:宗師>
声だけで表現するのは、カメラの前で芝居するのとは随分違います。セリフを覚えず台本を読みながらできるのは楽なのですが、この身体を使わない分、ニュアンスの表現が何倍も難しくなるし、音色でキャラクターが決まってしまうわけですから、少しオーバーなニュアンスでも丁度よかったりもします。そこの塩梅が難しいです。細田監督は、バケモノ界を束ねる【宗師】には、「品」が必要だと言われました。粗暴な【熊徹】と、バケモノの世界では異端な人間の子【九太】の二人を【宗師】が無条件で好きになることを通じて、まずこの二人が何かやりそうだと観客に期待して貰うことが必要だからです。【宗師】の品が観客の期待への保証になる訳です。品は技術で表現出来るものではありません。これまでの役者人生を通じて培った最高値のプライドを持って反映したつもりです。私は不器用ですから、努力しなければならなかった役者です。だから、努力の中にこそ本当の品が生まれることを信じています。これからの俳優は実人生での生き方こそが観客に問われると思ってきました。でも現場では100%、細田監督を頼りに演じました。こんなに演出家を頼りにして芝居したのは初めてです。

<リリー・フランキー:百秋坊>
細田監督と最初にお会いしたのは10数年前のCMの仕事でしたが、今回映画のアフレコで再びご一緒させて頂き光栄でした。細田監督の作品は、監督ご本人に凄くリンクしていて、ご本人が邪気のない方だというのが、作品をご覧頂ければよく分かるのではないかと思います。例えば、絵も美しいし、出てくるキャラクターもみんな活き活きしてますから。
現場では、監督の中にある確かな正解に向かって丁寧に演出して下さいました。私が演じた【百秋坊】という役は大泉さん演じる【多々良】、役所さん演じる【熊徹】の3人と幼なじみのような間柄なんですが、みんなで一緒に演じていると、だんだんキャラクターと僕らの顔が似てきているような不思議な感覚になりました(笑)。
『バケモノの子』のお話の面白いところは、バケモノではなく、人間の方に悲哀や闇があることを描いているところでしょうか。なんなら、バケモノたちの世界の方が、人間にとっての理想世界なんじゃないかとすら感じましたね。

<大泉洋:多々良>
アニメの声の仕事は何度かさせて頂いていますが、1人で収録していることが多かったので、実写でもなかなかご一緒できないような豪華な共演者の方々と一緒にアフレコが出来て本当に楽しかったです。しかし、毎回声の仕事は難しくて慣れないですし、今回の作品は出番、台詞量が凄く多かったので大変でした。
僕が演じた【多々良】という役は、主人公【熊徹】の幼なじみで、仲間の【百秋坊】と共に、この物語の語り部的な存在です。
細田監督は今回初めてご一緒したのですが、演出がすごく丁寧で、脚本もご自身で作られているので指示が非常に的確でした。監督から頂いたアドバイスで、皮肉屋な中にも聡明さと愛情深さを持つ、【多々良】という役の多面性を理解することが出来きました。
細田監督の作品は、リアルな現代社会の人間を描いていて、メッセージ性もあり、なおかつエンターテイメントとしても楽しめる素晴らしい作品だと思います。
『バケモノの子』も、まだ完成前ですが、間違いなく名作だと思います。

<山路和弘:猪王山>
声の仕事はたくさんしているのですが、絵コンテの台本というものを僕は初めて頂いたので、寝る前に読み出したら面白くて、気がついたら朝になってしまいました。細田監督の絵コンテは、その緻密さに圧倒されます。監督の中で作り上げられた世界観に、声を入れることができるんだと、ものすごく楽しみにして現場に来ました。今回はこれまでの声優業を一旦忘れて挑みました。アフレコの仕事は尺があることが一番大きいんですが、この作品では、たとえ尺が合わなくても、感情を込める方が大事なんじゃないか、という気持ちで演じました。

<黒木華:一郎彦(少年期)>
前作『おおかみこどもの雨と雪』に続き、細田守監督の作品に参加できて凄く嬉しいです。監督の作品は共通のテーマとして「葛藤」を描いていることが多いと思います。最初に『バケモノの子』の脚本を読んだ時にも、壮大なストーリーだなと思いましたが、バケモノたちが人間的な葛藤をしている所が心に刺さりました。【一郎彦】というバケモノの男の子役でしたので、最初は声を低くしようかとも考えましたが、アフレコ現場に入ってみて、その部分は意識せず、より自然体に演じることを心がけました。短い時間の中でバケモノらしさを掴むのが難しかったですが、本作でもまた新しい経験をさせて頂きました。

<宮野真守:一郎彦(青年期)>
普段なかなかご一緒する機会のない役者さんと今回の作品で共演できたことで、すごく刺激を受けました。親と子のあり方は本当に様々で、この『バケモノの子』はファンタジーを交えて、観た人がうらやむほどの大きな家族愛を描いているな、と思います。そして面白いのが、『バケモノの親』もまだまだ未熟なところ(笑)。親と子がお互いの穴を埋めあっていて、互いに成長し、未熟もの同士だからこそ得られる絆が、本当に温かくてすごく印象的です。

<大野百花:二郎丸(少年期)>
前回の『おおかみこどもの雨と雪』に続いて細田守監督の作品に出られてすごく嬉しいです。今回は初めての男の子役、しかも猪のバケモノの子ども役なので気合いを入れて毎日家で練習しました。猪の声なんて誰も聞いたことがないので、最初は自分で自由に声を作ってみました。そこから監督のアドバイスを聞きながら、【二郎丸】の少年期の声を作り上げました。監督から「猪っぽかった、ぴったりだったよ」と言ってもらえてすごく嬉しかったです。

<山口勝平:二郎丸(青年期)>
細田監督との作品作りは10年振り。またご一緒したいと思っていたので、今回念願かなって本当に嬉しいです。一人ぼっちの少年と一人ぼっちのバケモノが出会い、家族を形成していく物語の中で、その対局的なボジションにあるもうひとつの家族の一人【二郎丸】を演じました。共演の方たちの、役に対するアプローチや表現の仕方と、自分のやり方を照らし合わせながらアフレコすることができ、非常に良い刺激を頂くことができました。

<諸星すみれ:チコ>
言葉ではなく鳴き声だけで表現するお仕事は初めてで、画を頼りに、いかに【チコ】の感情を表現できるのかを、考えました。最初に細田監督から、鳴き声だけど、【九太】に話しかけるような感じや、危険を知らせるようなイメージでなど、気持ちの部分の細かいアドバイスをたくさん頂いたので、とても演じやすかったです。常に【九太】の側にいつもくっついていて、彼に危険を知らせて導くお守り的な役目だということを意識して演じました。この作品では、言葉を使わず感情を伝える難しさを実感し、声優としても幅を広げられるとてもいい経験をさせて頂きました。

<長塚圭史:九太の父>
アニメに声をあてるのは初めてでしたが、とても面白かったです。声を入れる前に僕が演じる【九太の父】が動くのをみて、早く声を入れてあげたい、という不思議な愛着を持ちました。これも面白い体験でした。細田監督の作品の世界が持つ、子どもの想像力というか、常識から転換して発想を広げ、思いもよらないものが目の前に広がる感覚は非常に共感する部分です。僕は渋谷生まれの渋谷育ちなんですが、具体的な渋谷の街の裏側に異界が見えるというこの作品の発想がすごく好きです。

<麻生久美子:九太の母>
細田監督の作品は前作の『おおかみこどもの雨と雪』に続き2作目の参加です。【九太の母】役としてアフレコ自体は短い時間でしたが、すごく大事な台詞を頂いたと思っています。こういう短いけれど重要な台詞という出方が一番緊張しますが、参加させて頂いて嬉しかったです。監督は物腰が柔らかくて、作品から伝わってくる優しさ、そのままのイメージの方です。もちろん監督の作品も大好きで、ほとんど全作品観ています。

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