ラスボス島崎遥香の強さ、アクション&壁の落書きの秘話『マジすか学園4』演出・岩本仁志インタビュー[3]

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AKB48グループのメンバー総出演の連続ドラマ『マジすか学園4』(日本テレビ、毎週月曜24:59~25:29、Huluで先行配信)の演出を担当している岩本仁志さんにインタビューを行い、撮影の裏話などを語ってもらった。
([2]からの続き)

――『マジすか学園4』の物語は“てっぺんを目指す”という明確なコンセプトが前面に出ていますが、過去作を意識した点は?

まず、秋元康さんやプロデューサー陣とも話して、ある種、東映のヤクザ映画みたいな世界の中に、若い女の子をぶち込んだらどうなんだろうっていう企画自体が面白いので「あえてシンプルに作ろうよ」という話はしました。また、「ドラマ初めてです」みたいな女の子がどんどん成長していく様が、現実のAKBグループ内での競争を通して成長していく彼女たちの姿とダブっていくというのも、この企画本来のコンセプトですし。原点回帰じゃないですけど、そういう意味では確かに2010年の第1作を一番意識していますね。前田敦子さんは戦闘モードになる時に投げ捨てるメガネが、今作ではさくらのスカーフだったり。第1作では鬼塚だるま(なちゅ)、今作ではカミソリ(小嶋真子)・ゾンビ(大和田南那)のコンビが舎弟として主人公にくっついてまわったり。

――強烈なインパクトを残した鬼塚だるま(劇中で主人公の舎弟キャラで活躍)を演じた、なちゅさんもOBゲストで登場しましたね。

ホント、しゃべり方にしても何にしても、だるまは、いいキャラクターですよね(笑)。やっぱり、第1作で前田さんと同じくらい大変だったのは、彼女でしょうし。今回、現場に来た時に「ずいぶん痩せたね~」と言ったら、「もともと、肉襦袢着てるんです」って。「そうなんだ!」と驚きました。肉襦袢つけて、メイクして「こんな感じですかね。私も(過去シリーズを)見直してきたんですよ」と、ノリノリでした。

――ネット上でも、「マジすか」ファンの間で話題になってました。「手羽先でた!」と(笑)。

手羽先はもちろん、出さないと(笑)。さくらの舎弟になりたくても相手にされないカミソリ・ゾンビに“舎弟の道”を説く重要な役どころで出てもらいました。あの手羽先、衣装の内側にビニールの保存バッグみたいなのを付けてもらって、清潔な状態で入れてあるんですよ。そうしないと、ベタベタになっちゃいますから(笑)。

――過去作では、「このドラマは、学芸会の延長であり……」という注釈が最初に出ていましたけど、今作では出しませんでした。その意図は?

この導入は、とても良いアイデアだと思うんですよね。コンセプト通り、視聴者も彼女たちの成長を見守るモードになる。だけど、同じことを真似してやったらつまらないし、エクスキューズを入れなくてもいいぐらいのクオリティを目指そう、という意気込みを表すためにも、今回は外しました。でも、(クランクアップした)振り返ると、本当に、よく成立したなと、今さらながら思います。最初に皆のアクション練習を見たときには、宮脇はもちろんですけど、他のメンバーを見ても、「大丈夫か、この企画……」と愕然、あ然、呆然でしたから(笑)。

――とにかくアクションに特化した内容だから、逃げ場がないですよね。

そうです。出演している子たちはもちろん、僕らスタッフにとっても初めてのチャレンジでしたね。だって、女性のみが出ていて、しかもアクションに特化しているドラマ自体、ほとんど存在さえしないじゃないですか。僕の記憶では、野際陽子さんとかが出演されていた、「ザ・スーパーガール」(1979年~1980年)とか、そのくらいしか思い当たらないですね。香港映画でさえ、ほとんどないと思います。だから最初は、アクションはほぼ初めての出演者もいる中で、「どう撮りゃいいんだよ!」という感じでした(笑)。とにかくカット数が多くて、1回の放送が30分なんですけど、600カットくらいあって。編集の方も「こんなドラマ、初めて」と仰ってました。

――蓋を開ければ、そのアクションがすごく本格的で、びっくりした視聴者も多いと思います。

そう見て下さる方がいらっしゃるのは嬉しいですね。今回、アクション監督の吉田(浩之)さんがすごくがんばってくれましたし、カメラマンも、そして何より出演者も、最後までやりきってくれましたから。吉田さんとも相談して僕らで決めたルールは「武器は使わないようにしよう」ということ。武器を使うと何でもありになってしまうし、“マジ”の殴り合いを描きたいのだから、そこは素手だろうと。ただ、放送が10回ということは、10戦分、それぞれに特徴をつけて描かなくちゃいけないので、考えるのは楽しいけど、大変な作業ではありました。例えば「バカモノ(川栄李奈)戦の時はアッパーカットでフィニッシュにしよう」みたいな感じで、色々な技、モチーフ、イメージを出し合いながら進めました。アントニオ(山本彩)戦は、名前から連想して「プロレスも取り入れよう」と、ドロップキックさせました(笑)。

――確かに、毎回特徴のあるバトルシーンになっていますよね。バリエーションももちろんですが、パンチやキックが当たった瞬間や撮り方なども、飽きない工夫がされているように見えます。

編集の努力もありますね。やっぱり、パンチやキックって、そのまま見せちゃうよりも、スピードに落差を付けるとカッコ良く見えるんですよ。拳を突き出した瞬間はちょっとスローをかけておいて、当たる瞬間に速くすると、普通に早回しをするよりも速く見えるんですね。他にも、わざと短いカットをテンポ良く積んでいって、最後に決め技をスローで見せると、非常に強烈な攻撃に見えたりする。そういう、視覚的なマジックをいくつか使っています。あとは、音にも凝ってますね。1個1個のパンチでも、空振りをするパンチと、当たったパンチと、決め技のでかいパンチで分けて。普段なかなか出来ない世界観なので、楽しみながらやっています。

――出演者の皆さんも、だんだんアクションを楽しめていた?

いやあ、そんな余裕はなかったかもしれませんね(笑)。それでも皆、この作品はアクションがど真ん中にある、ということは理解していましたから。また、AKBのメンバーしかいないから逃げも隠れもできない。「アイツが頑張ってるから私も頑張らなきゃ」という感じで、支え合いながらやっていたと思いますよ。特に四天王は、一人ずつ順番に来るじゃないですか。自分の回が終わった後の開放感や達成感、すごいみたいですよ(笑)。最初はヨガ(入山杏奈)だったんですけど、やる前は泣きそうだったし、最中も必死だったけど、やりきった後は「終わった……」と言って、スッキリしてましたね。そこから先は、部室のシーンとかも、一人だけ肩軽そうで。次が川栄(李奈)で、次は木﨑(ゆりあ)で、次は横山(由依)で……と、ひとりずつ肩の荷を下ろしていくんです。特に四天王は、それだけ、責任を背負っていたということですね。だからこそ、四人の最後、おたべ戦は重みが違いますね。

――ご本人たちは、自身のアクションについて何か仰っていましたか?

ただただ必死だったと思いますが、「相手に向かっていく瞬間の表情を丁寧に撮ってもらえて嬉しい」と言っていたらしい、ということは聞きました。彼女たちは普段はアイドルだし、こういう作品でもないと、表情を崩して「うおー!」みたいな芝居はしないじゃないですか。だからこそ、僕としては、彼女たちが真剣な眼差しで、女の子であることを一瞬忘れて戦う瞬間をしっかり切り取って見せたいな、と思いながら撮っていました。彼女たちに言い聞かせたのは、「お芝居っていうのは、とにかくキレイにかわいく映ったって、そんなものは全然魅力的じゃない。いかに個性的で、いかにパワフルかっていうことが一番大事だから」ということ。皆、「わかりました」って言って、「ハーッ!」と声を出しながら各自練習しているんだけど、ただの変顔になっていて(笑)。「違う違う!」とつっこんだりしてましたね。

――ドラマを見ていると、出演者の方たちのエネルギーはもちろん、スタッフの方たちも楽しんで制作している雰囲気が、画面からも伝わってくるようです。

そうですね。スタッフも、すごく愛情も込めて作っています。アクションを作り込んでいる一方で、美術部もすごく楽しんでやってましたよ。深夜でそんなに予算がないので3人だけなんですけど、とても真面目な人たちで、毎日毎日、黙々と壁を汚していくわけですよ。あれは壁に和紙を貼って、その上に直書きしているんですけど、絵心のある人がすごい絵を書いたりして、どんどんアートのようになっていく。

――背景の美術装飾に関して、注目ポイントはありますか?

いっぱいありますよ。きっかけは僕のひと言だったかもしれません。ある時、「5話のマジック(木﨑ゆりあ)戦は美術準備室でやろう」と言ったんですね。その“美術準備室”という言葉が、どうも美術部のハートに火をつけてしまったらしくて(笑)。アクションを派手にやっているので見逃してしまうかもしれませんが、黒板にダリの絵を細密に描いているんですよ。ゴッホもあります(笑)。いたずら書きってレベルじゃないし、もはやヤンキーの仕業じゃないよと言っていたら「マジ女には、実はこれを描ける人がいる」という裏設定みたいな話に(笑)。あと、おたべ(横山由依)戦をやる昇降口みたいな場所もすごいことになってますよ。おたべが背中に背負っている龍が、そのまま壁に描かれているんです。背中越しにこちらを見るおたべ、その背景は龍の壁画……という、ゾクゾクするくらいカッコ良いシーンになっています。

――大好評放送中の本作ですが、視聴者の方々に指示される理由は何だと思いますか?

自分では一生懸命作っているだけなので、理由はこうだ、とは言えないですけど。僕も、視聴者の方々も共通していることだと思うんですけど、アクションも、お芝居も初めての女の子たちが、どんどん成長しているのを見ているのが、単純にすごく面白いですよね。1話よりも2話、2話より3話、3話よりも……という風に、どんどん面白くなっていく。彼女たちの殺陣も芝居も目に見えてレベルアップしてきて、ドキュメンタリーを見ているような感覚さえあります。

――ありがとうございました。撮影はすでにクランクアップし、ドラマもいよいよ終盤に向かいますが、今後の展開も楽しみです。では最後に『マジすか学園4』ファンにメッセージをお願いします。

やればやるほど伸びる、成長著しい出演者たち。だからこそ、まさにピークは最後に来ます。その象徴は主人公のさくら(宮脇咲良)ですが、彼女が目指すてっぺん、ラスボスのソルト(島崎遥香)は、圧倒的に強いですよ。目力も威圧感も半端なくて、アクションのスピードもそうですし、まんべんなく強い。言葉に言い表せないくらい、素晴らしかったですね。ともかく、最初から見ている方も、途中から見ている方も、ぜひ最後まで応援してもらいたいです。彼女たちからパワーを貰えると思います。この『マジすか学園4』が一人でも多くの方に見ていただけたら、『マジすか学園5』をぜひやりたいですね。
(インタビューの前編は[1]へ)

[演出・岩本仁志]他のドラマ作品は、「君といた夏」「白線流し」「ナースのお仕事」(いずれもフジテレビ)、「女王の教室」「野ブタ。をプロデュース」「斉藤さん」「斉藤さん2」(いずれも日本テレビ)など。映画監督作品は「明日があるさ THE MOVIE」(2002年)、「MW-ムウ-」(2009年)。

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