井上由美子「“書ける人”になる」シナリオ大賞受賞者に高い期待

公開:

テレビ朝日新人シナリオ大賞』(主催・テレビ朝日、後援・朝日新聞社、BS朝日、東映、幻冬舎)の第17回受賞者が決定し、6月26日(月)、東京・港区六本木のテレビ朝日本社内で、決定発表記者会見並びに授賞式が行なわれた。

2000年7月に創設して以来、数多くのシナリオライターを輩出してきた『テレビ朝日新人シナリオ大賞』。昨年6月に結果発表した第16回開催より、テレビドラマ、オリジナル配信ドラマ、映画の3部門に分けて募集する形に進化を遂げている。また、これまでの受賞者には、第2回大賞受賞者、古沢良太は、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』やドラマ『リーガルハイ』(フジテレビ)などで知られる人気脚本家となり、第6回優秀賞受賞者の坂口理子は、2013年公開のスタジオジブリ製作のアニメーション映画『かぐや姫の物語』の脚本を手がけ、朝の連続テレビ小説『マッサン』(NHK)にも脚本協力として参加。第9回ファイナリストの伊藤洋子は、テレビ朝日のドラマ『遺留捜査』『刑事7人』などの脚本を担当しており、それぞれが活躍している。

新形態となって2回目となる第17回には全3部門で計1544篇の応募があり、第1次選考は日本脚本家連盟に所属する脚本家の方々によって行われ、218篇が通過した。第2次、第3次選考は、テレビ朝日のプロデューサー、ディレクターなどで構成された“社内選考委員会”によって審査が行なわれ、第3次選考で10篇に絞り込まれた。そして、2017年5月26日に選考委員の井上由美子、岡田惠和、両沢和幸の3氏による最終選考会がテレビ朝日本社で行なわれ、大賞および優秀賞、計3作品が決定した。

大賞に輝いたのは、テレビドラマ部門に応募した池田有佳里さんの『ヒマワリの向いていない方』。また、優秀賞には湊 寛さんの『さかのぼり郵便局』、小林千晶さんの『みんな大切な私』(共にテレビドラマ部門)の2作が選ばれた。

決定発表記者会見の席上で、司会の野村真季アナウンサーから大賞として名前を読み上げられた池田さんは、その瞬間、驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべ、「とても光栄で……驚いています!」とあいさつ。「シナリオを書きはじめて20年ほど経ちますが、久しぶりに皆さんに読んでいただく緊張感と、審査を上がっていく過程にドキドキしました。今後もオリジナルの脚本を目指していきたいと思っています」と目を潤ませながら受賞の喜びを語っていた。また、この喜びを誰に伝えたいかと聞かれると、「職場の方々です。某新聞社でアシスタントとして働いていますが、最終選考に残ったことを伝えたところ、とても喜んでくださいましたし、“大賞を獲ったら新聞に載せようね”と言われていましたので、まずは職場の人たちに伝えたいと思います。実は、家族にはまだ話していません(笑)」。

大賞には賞金500万円、優秀賞には100万円が贈られることになっており、授賞式では受賞者の3人にテレビ朝日代表取締役会長兼CEO・早河洋より賞状と賞金の目録が贈られたほか、最終選考委員の3氏から副賞が手渡されたが、それぞれ賞金の使い道については、「半分はローンの返済に、残りは誰かを喜ばせるための何かに使いたいと思っています」(池田さん)、「ずっとシナリオを書いてきたパソコンが寿命を迎えたようなので、新しいパソコンを買って、またシナリオを書いていきたいと思っています」(小林さん)、「これから東京に行く機会を増やしたいので、北海道から東京への飛行機代などに使いたいと思っています」(湊さん)と、それぞれコメントしていた。また、選考委員の講評は次の通り。

[井上由美子]皆様、おめでとうございます。このコンクールも17回目となり、毎年、皆さんのこれからのご活躍をお祈りしながら講評させていただいています。作品を求める側も毎年、どうすればよい作品がいっぱい集まるかと工夫しており、昨年からジャンル分けしたことでさらに多彩な作品が集まるようになったと思います。今回、最終選考を通過した3人の方々は接戦でしたので、優秀賞のお2人も落胆せずに頑張っていただけたらと思います。個人的な感想を申し上げると、私は小林千晶さんの作品『みんな大切な私』が好きでした。過去と未来の自分に会うという物語ですが、セリフがとても上手で、小林さんは“書ける人”になるのではないかと思いました。最近、コンクールの応募作を読むと“自己規制”がかかっているといいますか、できるだけ人にけなされないようなものが多く、チャレンジする作品が少ないように思います。今回の3人はそれぞれ自分の描きたい世界に挑戦していらしたので、3人のチャレンジには拍手を贈りたいと思います。先輩としての願いは、“強い脚本家になってほしい”ということ。テレビという存在が弱くなったといわれる今、作品自体が叩かれたりすることも多いので辛いこともあるかと思いますが、私たちも頑張っていきますので、皆さんも強くなってどんどんチャレンジして、よい作品を書いていただきたいと思います。

[岡田惠和]このコンクールも17回目となり、17年に渡って審査をさせていただいているということで、僕らもどうしようもなくベテランになったのだな、と感じました(笑)。今回は非常に読み応えのある応募作が多く、チャレンジしているものやハートウォーミングな作品がある中、“これが描きたい”という思いが強かった3人が最終選考に残ったのだと思いました。私は大賞に輝いた池田有佳里さんの作品『ヒマワリの向いていない方』に、最も高い得点をつけました。この設定を選ぶのはなかなか勇気が要ることですし、その設定に溺れることなく、登場人物ひとりひとりがよく考えられ、よく練られた作品だなと思いました。“書ける方”だなと、強く思いました。脚本家はそんなに楽な商売ではなく、先輩たちが作ってきた“今ある型”みたいなものを壊していくような、新しいチャレンジがどんどん必要だと思います。このような受賞のステージに乗った以上、ここから先は同業者としてライバルでもありますので、助けることはありませんが(笑)、一緒に戦っていきたいと思います。そしてこれからは脚本家も豊かになって、老後はぜひ『やすらぎの郷』に入れていただきたいな、と(笑)。ここからが勝負なので頑張ってください!

[両沢和幸]今回の応募作は、大きく分けるとファンタジー色の強い作品と、社会派の作品とに分かれていたように思います。大賞に輝いた池田有佳里さんの作品『ヒマワリの向いていない方』は厳しい現実を描いた物語でしたが、ほかのお2人の作品はファンタジー。私は、過去の人間に郵便を送ることができるという、湊寛さんの作品『さかのぼり郵便局』が好きでした。コンクールに応募するときは、皆さんが書きたい作品、得意な分野を選んで描くと思います。ところが、プロは発注があって書くことになるので、書きたくない傾向や苦手な分野も手掛けなければならないということが多々あります。それを乗り越えないとプロにはなれません。いつか自分が本当に書きたいものを書けるときが来ると思うので、それまでは作品にこだわらずにトライしてほしいと思います。結構な額の賞金をもらって、受賞者の皆さんはホッとして緊張感が解けてしまうかもしれません。でも、もし脚本を一生の仕事にするのであれば、5年や10年くらい食えてもダメ。30年から40年は食っていくことができなければ、仕事とはいえません。ぜひ長くやるつもりで頑張ってください。

PICK UP