宮沢りえ主演作『紙の月』吉田大八監督「ヒロインへの賛否どちらもあった」

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7年ぶりの映画主演となる宮沢りえが、主人公・梅沢梨花を演じ、2014邦画映画賞最多29冠獲得を獲得した話題作『紙の月』。待望のブルーレイ&DVDが5月20日にリリースされる。これを受け、吉田大八監督からコメントが到着した。

「最も美しい横領犯。」というコピーでも話題を読んだ本作。銀行の契約社員として外回りをしている梨花は、顧客や上司からの評価も高く、何不自由のない生活を送っているように見えた。しかし、自分への関心が薄い夫との間には、空虚感が漂い始めていたある日、年下の大学生・光太(池松壮亮)と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初はたった1万円を借りただけだったが、その日から彼女の金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、暴走を始める。

メガホンをとったのは、第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した傑作『桐島、部活やめるってよ』を送り出し、次回作が熱望されていた鬼才・吉田大八。直木賞作家・角田光代の原作を大胆に脚色し、1人の女性が聖と悪の両面を抱えながら能動的に堕ちていく様を、スピード感あるサスペンス大作として描き出した。この度、ブルーレイ&DVDの発売を受け、吉田監督のコメントが到着。宮沢りえの魅力や作品について語った。

――劇場公開時には、そうとうな反響を集め、先日の日本アカデミー賞まで話題が途絶えませんでしたね。

当事者だから俯瞰で見ることはできませんが、大きな理由のひとつに、やはり宮沢さんをはじめとする女優たちのパワーがあったのは間違いないでしょう。映画がカタチになって世の中に出ていく過程の中で、主演の宮沢さんが女優としての存在感で世の中に与えるインパクトは、やはり強烈だと感じました。結果として、宮沢りえ7年ぶりの主演というニュース自体が映画にとって心強いものであったことは確かでしょうね。体を張ってプロモーションしてくれた彼女の姿も新鮮でした。愛情を持って作品のことを、世の中へ向けて真剣に伝えてくれてすごく感謝しています。

――反響の内容として、具体的に印象に残ったことは何ですか?

「倫理的に、こういう女性は許せない」という否定の声が意外と多かったこと(笑)。映画そのものの感想を超えて、あんなヒロイン(梨花)像、それを映画にすること自体を認められない、みたいな。賛否どちらも、すごく反応が強かったです。「ヒロインを他人とは思えない、あれはまさに自分だ」という反応と、「あんな女には1ミリも共感できない、もっとひどい目に遭うべき」という反応は、きわめて近い場所にあると感じた、と言ったらさらに怒られるかもしれませんが。

――気に入っているシーンは?

東京国際映画祭で上映された時に、六本木ヒルズの一番大きなスクリーンで観たんですが……終盤の女性2人の会話シーンの圧迫力がハンパなくて(笑)。作った自分がぐったりするくらいの圧力で、初めて観る人はキツイだろうなあと思いましたよ(笑)。

――監督自身はヒロインをどう思っていますか?

撮っていた最中は、シナリオに書かれているラストをあえて目的地と意識せず、彼女を煽り続けたらどこまで行けるだろう? というテンションでした。僕には、ヒロインと同じものを見ることはできない。でも、その何かを観ている彼女の顔だけは絶対に捕まえようと。共感とは違う次元で、彼女の想いを、表情を通じて感じたい、ということだったと思います。

――原作者の角田さん、宮沢さん、吉田監督のカラーがバランスよく出ていて、コラボ感の印象が強かったです。

バランス感覚に自信があるので、今回のように大幅に脚色することになっても作品のコアは外していないはずです。自分の読後感を忘れないことが、角田さんの原作を預けてもらって映画にするときの、最低限の責任だと思います。

――この成功で、原作モノの映画化のオファーが多いですか?

でも、原作のどこかに自分でつかめるものが無いと、どんなに面白くてもできないんですよ。一場面でも一行でもあれば、そこを起点にできる。

――映像特典、メイキング映像のポイントは?

やはり宮沢りえさんでしょうね(笑)。宮沢りえ力(りょく)。現場においていかに僕ではなく彼女が求心力を発揮していたか、がわかるメイキング映像だと思いますよ(笑)。

――最後に、初めて観る方へメッセージをお願いします!

できればスクリーンで観てほしかったけれど、でも実は僕も好きな映画を最初に何で観たかあまり覚えていないことがあるので、安心してください(笑)。もちろん、コメンタリーは二度目以降からでお願いします。

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