フジテレビ報道ツイッターの「中の人」が語る、ニュースとユーザーの繋がり

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フジテレビの報道局の中に「ネット取材部」という昨年6月末に新設された民放テレビ局としては初の部署がある。ここでは「ツイッター」や「2ちゃんねる」など、インターネットの様々なサービスを介して、ニュース番組で使える画像や動画などの情報を収集している。

ツイッターなどで「テレビ局から画像を使いたいというダイレクトメッセージが来た」と話題になることがあるが、まさにそれを行っており、ある意味では視聴者にとっても身近な部署だと言えるだろう。

今回、ネット取材部部長の久永一成さんとデスクの瀧澤航一郎さんにインタビューを実施。久永さんは、96年に民放で初めて衆院選の開票速報をWebで行った「FNNニュース.com」を立ち上げ、その後も20年にわたり携わるなど、フジテレビのインターネット事情に精通する人物。一方の瀧澤さんは、2007年に大手通信会社からフジテレビに転職。デジタルコンテンツ局で動画配信サービスFOD(フジテレビオンデマンド)の地上波番組の配信サービスインに従事し、その後、編成部や広報部を経て、現在はネット取材部で手腕を振るっている。

そんな2人に聞いた、現在の報道から見るテレビとネットと視聴者の関わりとは? 撮影機材やネットの進化など、“技術の進歩”と共に築き上げられた、これまでとは違ったニュースの現場があった。


<インタビュー>

――ネット取材部はどのような経緯で設立されたのでしょうか?

久永:これまでもWebサイトにご意見フォームを設けたり、映像を送りたいという視聴者の要望に応える「FNNビデオPost」というサイトやアプリを開発したりしてきました。さらに最近はSNSなどにアップされている映像や画像を放送に使用したいというケースが増え、専門部署が必要だという機運が高まり、ネット取材部ができました。

――「ネット取材部」では具体的に何をされているのでしょうか?

久永:大きく2つの機能があります。まず1つは、SNSなどにアップされた映像や静止画について取材を行い、放送に使用させていただく許諾を得ること。もう1つは、インターネット上のトレンドを調べることです。報道の人間が今までのルーチンの中では気付けないニュースを見つけてくることもあります。

――いわゆる“中の人”と呼ばれる存在なんですね(笑) ところで、前者についてはこれまでも同様の機能が報道局の中にもあったのではないかと思うのですが、なぜ独立されたのでしょうか?

久永:以前はSNSの取材を番組毎にやっていたのですが、時折、トラブルが起きることもありました。そのリスクを低減し、ノウハウを蓄積させるためにも専従でやるべきと判断しました。

――ネット上には膨大な情報が溢れていると思いますが、どのように収集しているのですか?

瀧澤: AIを使ってネット上の画像や映像などを集められるサービスを使って調べることもありますし、一般公開されている「Yahoo!急上昇ワード」や「Yahoo!つぶやき」のランキング、「2ちゃんねる」、各キュレーションサイトなどの巡回もしています。あとは、ツイッターで「警察」「火事」「規制線」「立てこもり」「やじうま」とか、何か起きたときにSNSに投稿されそうなワードを類推して検索することもあります。

――そこで発見した情報を使うために、その発信元のユーザーにコンタクトを取っていくわけですね。どのようなやり取りをされているのですか?

久永:ツイッターであれば、まずはコメントに書き込みをして、ダイレクトメッセージでのやり取りをお願いし、その後、出来るだけ電話で直接お話しさせていただくようにしています。また、投稿者に伺うべき情報のフォーマットが用意してあり、お名前などの情報の他に「素材の権利」「事象が本当に起きているか」「違法性はないか」を確認しています。また、電話でやり取りさせていただくのは、映像を撮影された方の状況などを直接細かく伺いたいためですが、声を聞いて相手が男性なのか女性なのか、どのくらいの年齢なのかなど、取材の参考にもさせていただいています。

――何気なくアップしたツイートがテレビ局に取り上げられると喜ばれそうですね。

久永:どうなんでしょう(笑) 最初は喜んでいただけているかもしれないですが、撮影の状況などを伺ったりするやり取りに10分程度はかかるんです。スクープ性が高い映像だと、我々だけでなく、NHKや民放各局など7~8社から同じような取材を受けるはずなので、すべての取材に対応していたらそれだけで1時間以上かかってしまいます。

瀧澤:いち早く情報をキャッチして、アプローチするなら他局さんよりも早く、とは考えています。1社目、2社目は取材を受けたけれど、そこから先は断っているという方もいらっしゃいましたので。

久永:断りたくなる気持ちも良くわかりますからね。最初から完全に無視されたりブロックされたりすることもあるのですが、実はそういったケースはまれで、多くの方が時間を割いてお付き合いしてくださる。とても有り難いことだと思っています。

――これまでに取材された中で印象的な方はいらっしゃいますか?

久永:去年、東北地方に台風が上陸したときに、増水した川から逃れて車の上に避難している方がツイートしていたんです。それでコンタクトを取ったらダイレクトメッセージは返してくれたのですが「いつ充電できるかわからないので電話は控えさせてください」と言われて、その時はハッとしました。その状況を伝えたいと思ってツイートされているとしても、取材する側の心得として、相手の状況を想像、配慮することは、とても重要だと改めて感じ反省しました。

――ネット上では「ちゃんと自分で取材をしろ」という厳しい声を見ることもあります。実際にアプローチされている中で、そのような声はありますか?

久永:よほど特殊な事でない限り、SNSの投稿内容だけで放送が完結するようなことはなくて、他の多くの取材もした上でニュースとして取り上げています。また、投稿者へのお願いも取材の一環だと考えています。もちろんネット上でそのような声が上がっていることは認識しています。その一方で、取材時にご本人からそのような反応をいただくことは、ほとんどないこともお伝えしたいです。

――ネットに投稿されている情報の価値について考えをお聞かせください。

久永:フジテレビの報道クルーだけではあらゆる場所を取材することは出来ませんし、何よりも、決定的な瞬間はそこにいた皆さんがスマホなどで撮られていることが多い。起こっている事件や事故を正確に伝えたいという意味で、決定的瞬間を捉えた映像や画像を使わせていただくことで、より良い報道をしていきたいと考えています。

――無限にあるといっても過言ではないネットの情報の中から「テレビで使いたい」と判断する基準はどこにあるのでしょうか?

久永:まず、ほかの取材部署や番組制作サイドから要望される場合があります。例えば社会部が火事の情報を得て「ツイートにあがっていませんか?」と聞かれて、そこから調べるパターンですね。

瀧澤:逆に我々が探す場合は、視聴者感覚で「この映像や写真の事案を知りたいかどうか」を考えます。そして、そこから報道カメラが現場に向かって間に合うような状況であればいいのですが、例えば、火事の現場であれば、消防や警察の到着後は、規制線の中には入れなくなり、現場に急行しても、間近から映像を撮ることはできません。この場合、火事が起きた直後に近くから撮影された映像があれば、それは放送する価値があるかもしれません。ただ、視聴者の目線と思ってやっていても、感覚がズレていることもあるので、迷ったときは、久永をはじめスタッフと「これはどうでしょうね?」と話しながら判断しています。

――ネット取材部が得た情報を番組に渡す割合は増えているのでしょうか?

瀧澤:だいぶ増えてきています。例えばゲリラ豪雨だと、天気予報である程度事前予想ができます。一方、火事や事件、事故などは事前予測できないので、一般の方のSNS投稿で覚知して各取材部や番組サイドにお知らせします。

久永:例えばゴールデンウィークであれば、水の事故などが多くなるので、僕らが情報を掴んで、各部に渡して番組で取り上げるということはありました。

瀧澤:最近だと、大分の川でお子さんが流されて、70代の男性医師が飛び込んで救助したニュースは、ツイッターで覚知した事案でした。

――これまでの良かった点と反省点を教えてください。

久永:良かったのは、災害を広く知って欲しいというモチベーションで投稿している人がいらっしゃって、我々がそれをさらに広く伝えられたことで、その方に喜んで貰えたことですね。逆に反省は、我々の知らないところで大きな何かが起きているのを掴みきれていないことです。例えば、ある重大な事件の時に、容疑者が公開していた映像があったのですが、私たちが全く確認していなかった動画サイトにあげられていて、気付いた頃には削除され、その映像を得ることができなかった。でも、他局がその情報を掴んでいたのを見たときは悔しかったです。

――先ほどユーザーにコンタクトする際に「事案が本当に起きているか」「違法性はないか」を確認していると仰っていましたが、ネット上の情報の真偽を確かめるのは簡単ではないのかなと思います。

瀧澤:基本的に、投稿された方に取材する中で、現場の状況をお伺いして、正確な情報かどうか確認させてもらってます。過去に発生した別事案の画像かどうかを確認するために、Googleの画像検索なども使います。新しい映像、画像の場合は、同じ事案で撮られた別の投稿のものなどと比較して、整合性を確認し、それを踏まえた上で、その投稿者の方にアプローチさせてもらいます。

――「違法性はないか」というのはどのようなことを意味しているのでしょうか?

瀧澤:よく高速道路等で車が炎上している映像のニュースがありますよね。この場合、運転手が走行中に撮影している映像は道路交通法違反の疑いがあるので使いません。ただ、最近は車載カメラをつける方が増えてきていて、使用できる走行中映像も増えてきました。私有地に入って撮影された可能性がある投稿も同様に使用しないようにしています。

――話題は変わりますが、フジテレビのネットニュースメディア「ホウドウキョク」(通称:カタカナホウドウキョク)内の生番組「ランチタグ」の中で「AFTERNOON TAG」のコーナーに出演されていますよね。

久永:月曜から金曜日に私と瀧澤の日替わりでちょっとしたコーナーをやっているのですが、その日にバズっているワードを紹介しています。なかなか地上波ではやれない、ネット配信ならではのニュースになっていると思います。

――これまで出演側をやられたことがあるのですか?

久永:まったくやったことがなくて、最初は凄く抵抗していたんです(笑)

瀧澤:拒否権がなかったような……。 番組で使用する資料を作成するために、昼前の1時間は特に集中してネットサーフィンしています。ニュース性のある3つほどのキーワードを選んで、知られていない情報やネットの反応を付加してお届けしています。

久永:扱うキーワードの中に、他局の番組がきっかけで上がってくるワードも多いんですよ。でもここは「ホウドウキョク」ですので、そのまま「○○さんが○○テレビの番組に出るそうですね」といった具合に、他局の情報を伝えてしまっています(笑) 一方で、テレビ発のキーワードは依然として多いなという印象は受けています。

――逆に、ネットからテレビに波及していったニュースなどはありますか?

久永:例えば森友学園の問題は、最初はネットで騒がれていて、なかなかテレビでは大きく扱われなかったのですが、「ネットで騒がれている」としつこく言い続けていくうちに大きな話題になっていきました。そこの感覚のズレは気をつけなくてはいけないなと思いましたし、我々がもっと声を大きくして伝えなければいけなかったと思っています。

――今後の「ネット取材部」はどのような展開を考えているのでしょうか?

久永:ツイッターなどが公開している検索のAPIとかを組み合わせて、世の中の流行を“きっかけ”の段階ですくいあげるようなことをできるようにしたいなと思っています。

――まだ一般的には知られていないけれど、いわゆるインフルエンサーみたいな人たちの盛り上がりを掴むということでしょうか?

瀧澤:そうですね。柔らかいネタでも固いネタでも、ニュース性の高い情報をいち早くキャッチすること、それがネット取材部に求められていることだと思っています。最新テクノロジーについては、久永が詳しいですし、そういったものを取り入れながら、ネット取材の業務フローを進化させていきたいと思います。

――色々なお話をありがとうございます。最後に、視聴者やユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

久永:勝手なお願いなのですが、スマホの映像は横向きで撮ってください(笑) インスタグラム中心に撮っている方は正方形なので良いのですが、縦だとちょっとテレビには……。

瀧澤:研修中の新入社員には「テレビ局員なんだからスクープ映像は横で」って漏れなく伝えています(笑) 視聴者の方々にも、これぞという画像や映像がありましたら「FNNビデオPost」へ投稿いただけるとうれしいです。

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