ドラマ舞台裏『オトナ女子』“おしゃれセット”の作り方

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アラフォー女子の恋愛模様を描いた篠原涼子主演のドラマ『オトナ女子』(フジテレビ系、毎週木曜22:00)の撮影セットを紹介するスタジオ見学ツアーが、このほどフジテレビ湾岸スタジオで開催された。今回、美術デザイナーの鈴木賢太さんが案内するツアーに同行し、ドラマのセットに込められた様々な思いを語っていただいた。

ドラマは“オトナ”になっても“女子”であることを諦めたくない40歳の独身女性・中原亜紀(篠原涼子)を中心に、大崎萠子(吉瀬美智子)、坂田みどり(鈴木砂羽)の3人が、高山文夫(江口洋介)や栗田純一(谷原章介)ほか、ダメなオトコに振り回されながら、幸せをつかむために奮闘していく姿を描いたオトナのラブストーリー。

湾岸スタジオには、物語の軸となり、いつも文夫が執筆しているカフェ「カルド」と亜紀のオフィス「Fruitage」、亜紀の部屋など、ドラマで目にする3つのセットが存在する。今回紹介するカフェのセットには、文夫のキャラクターを表現する様々な仕掛けが施され、オフィスのセットには、奥行きを表現する匠の技や、撮影をスムーズに進行するためのある仕組みが用意されていた。スタッフたちがこだわり抜いて作り上げていくドラマの“舞台裏”を紹介する。


――ドラマのセットを作るにあたり、美術デザイナーはどのようなことを考えるのでしょうか?

まず台本と設定を見て我々が肉付けをしていく感じです。大きいストーリーラインは最終話に向けてありますが、毎話どういうところに起伏を持たせて面白くしていくかを考えていく時に、まずはキャラクターに厚みが出ることが重要になります。“このキャラクターだから、このストーリーがある”というところを目指していき、そのために美術側からアプローチできることをあげて、演出を補佐していきます。

――セットの完成までにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?

今回、カフェのセットが必要と言われてから、1ヶ月半くらいありました。これは結構良い勝負ができるなと思って試行錯誤していました。ドラマは1ヶ月切ったくらいから、ロケハンに行って、キャラクターや台本が決まってくるんです。そうやって終盤にギュッと固まっていき、“こういうセットを建てる”と決まってから、僕が実際に使える日数は3日です。だから、それまでにいろんな可能性を考えて研究して、この方向性だって決まった時にすぐに出せるようにしておく。その積み重ねを1ヶ月の間でやっています。

――セットのイメージを描いたスケッチは何回も書き直していくのでしょうか?

僕の場合は、これを何枚も書くことはあまりなくてほとんど1回だけです。ただ、ディテールの収集はずっと行っていて、素材とか棚のスペースとか、そこに置く最適なモノの情報を集めます。文夫は本を並べて置くタイプの人間なのか、片面だけ日焼けしているんじゃないか、読んだ本は平積みにするんじゃないか……。色々な想像をしておいて、その上で空間を組んだ時にパッと出せるようにしています。イメージ的には“文章”というより“単語”でアイデアを発想しておき、いろいろなパーツを浮遊させておいて、やることが決まったら一気に当てはめていく感じです。

――とてもオシャレなカフェですが、こだわりのポイントを教えてください

ドラマに映る時間も長く、このカフェは重要な場所になると思いました。ここにあるほとんどが文夫を表現するモノになっています。彼にとって居心地の良い空間で、お店なのに自分専用の場所まで作ってしまっている。もしかしたら、マスターよりもこの店を詳しいかもしれないという状態を作り出しましょうと監督と話し合って決めました。それを表現するには、明るく白い空間ではなくて、テクスチャーのあるグレイッシュな空間が良いなと思い、鉄の素材が効いた骨格を作りました。インテリアに関しても、深めな木調を中心にして、一点一点が個性のあるモノをそろえています。ただ、個性がたくさんあって散ってしまうのではなく、それがひとりの男のセレクトにより統一されている感じを意識しています。その中で、文夫がまるで自分の家で過ごしているように見せるのが大変でした。ここはあくまで彼にとって書斎のはずなので、彼の後ろにある本棚には必要なモノが全部入っているに違いないとか、想像していき、それで用意したのが金魚です。これにエサをあげるのが文夫で、ちゃんと引き出しの中に金魚のエサがあります。それくらい彼が入り浸っていることを表現しています。

また、このカフェの重要な躯体となるのが鉄の柱です。彼のキャラクターを鉄の柱で表現したいと思ったんです。長い年月この建物はあって、ここにある柱は渋みのあるサビが浮いていて年季は入っているけど、しっかりと支えている。そんな柱を何カ所も置いて、その中に文夫や亜紀をはじめとする登場人物たちが入ってくるように仕掛けました。

――スタイリッシュなオフィスにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

みんなが「このアイデアどうだろう」って言いあうような職場が良いと思ったので、区切りのないデスクを置き、場合によっては4人並ぶこともできるフレキシブルで現代的なオフィスをイメージしています。オフィスなのでそこまで個性は出せないですが、若い子がいる机はピンクで彩ったり、亜紀の机の写真は恋人ではなくてちくわになったりしています。

――この空間演出でこだわったポイントはどこですか?

リアルなオフィスを目指して天井を全部作りました。それに奥行きを出すために床をストライプの柄で通しています。実は、壁の木目も窓側と廊下側で色の明るさを変えていて、視聴者の方がその違いに気付く必要はないのですが、映像を見た時により奥行きを感じてもらえればと思っています。

それと、オフィスと会議室の間にあるガラスの壁が、斜めに入っています。実はこれは撮影のためです。近代オフィスにはガラスが多いじゃないですか? その一方でガラスは撮影の天敵でもあります。正面にカメラを置くと、そこに反射してカメラや人が写り込んでしまうので、斜めに置くことで、正面から撮影しても大丈夫なように工夫しています。

――連続ドラマの撮影中に、セットに大きな変化は起きていくのでしょうか?

今回で言えばカフェのトイレです。最初から洗面所のドアはついていたのですが、その中は作っていませんでした。そうしたら4話で、文夫がトイレから出てくると、亜紀と池田のラブシーンを目撃して驚いて再びトイレに隠れて「何だろうこの胸のドキドキは……」って、初めて自分がそういう気持ちを抱いていることに気付くシーンができたんです。とても重要なシーンになったので、中を作ることになりました。ただ、普通にトイレを作るだけではダメなんですよね。“これから恋が始まるぞ”というドキドキのシーンに便器が映っていたら嫌じゃないですか(笑)。じゃあ、奥にトイレがあって、その前に洗面所を置けば大丈夫だろうということで、最終的な形が見えました。そうやって物語が進む中で後から形成されていく部分もありますね。

――今回のツアーで感じたことはありますか?

オンエアをご覧いただいたお客さんにとって、どこが魅力的なのか改めて感じたというか、こういうところが良いと感じてくれているんだということを知ることができて新鮮な気持ちです。それに、普段僕らは出演者と向き合っていますけど、視聴者の方々が、さらにその奥の部分も見てくださっていると思うと、やりがいがありますし、嬉しいですよね。

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