ももクロの魅力を再確認、本広克行監督が改めて語る映画『幕が上がる』舞台裏

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「ただのアイドル映画じゃなかった」、「ちゃんとした良い映画だった」と、さまざまなレビューサイトで高評価を受け話題になった、アイドルグループ・ももいろクローバーZ主演の映画『幕が上がる』。そして、その撮影の裏側を追ったドキュメンタリー作品『幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦』のBlu-ray&DVDが、8月5日(水)に同時リリースされる。両作品の発売を記念して、映画のメガホンを取った本広克行監督がインタビューに応じてくれた。

映画は、劇作家で演出家の平田オリザ氏の同名小説が原作。弱小の高校演劇部が、元・学生演劇の女王だった新任の先生と共に全国大会を目指し、さまざまな悩みを抱えながらも奮闘し、成長していく姿を描いた青春物語。演劇部の部長・高橋さおり役を百田夏菜子、3年生の演劇部員の橋爪裕子役を玉井詩織、同じく西条美紀役を高城れに、転校生の演劇部員・中西悦子役を有安杏果、2年生の演劇部員・加藤明美役を佐々木彩夏。そして、演劇部に演技のイロハを教える新任の先生・吉岡美佐子役を黒木華が演じる。

インタビューでは、ほとんど芝居の経験がないももクロのために行われた平田氏のワークショップの様子や、劇中で演じた生徒たちと一緒に女優としても成長していったももクロの魅力。そして、本広監督が「久しぶりにとても良い現場だった」と振り返る、撮影時の様子などをたっぷりと語っていただいた。

<インタビュー>

――公開前は、ももクロのファン(以下、モノノフ)も、映画ファンも、多くの人がももクロが主演と聞いて「どうなるのだろう?」と不安を感じた部分があったと思います。ですが、実際に公開されると「ただのアイドル映画じゃない」と、インターネット上では好意的な意見が多数を占めました。この反響を受けていかがでしたか?

実は、この映画をどういう層の人たちが観てくれるのかわかりませんでした。モノノフが来てくれるだろうと思いつつも、彼らが普段から映画館に足を運んでいるのかわからない。普通、こういった作品の場合は、ターゲットをしっかりと見据えて、そこに向けて制作していきます。でも、今の世の中、人々の趣向がコアな方向に傾いているからといって、ただコア層に向けてアイドル映画を作っても受け入れてもらえません。それに、ももクロのファンはすごくたくさんいますが、映画人口と比べると、さすがにそこまで多くはないですよね。それに青春映画とか、いわゆる“良い映画”は僕の経験上ヒットしない。ですから今回は「作りたい映画を作ってやろう!」と好きなようにやりました(笑)。こういう感覚は10年おきにやってくるんですよ。10年前は「サマータイムマシン・ブルース」で、さらに10年前は「サトラレ」を作っていて、今回もその2作品と同じような気持ちで挑みました。

――お芝居の経験が少ないももクロのために、撮影前に平田オリザさんのもとで演技のワークショップを行いました。平田さんの演出の特徴はどのようなところにあるのでしょうか?

オリザさんのメソッドというか、役者を磨いていく姿が好きなんです。この映画をやる前から稽古を見に行っていたのですが、演出家が役者に伝える言葉がすごく的確で、それによって自然な芝居が生まれていると感じていました。10年前の映画やテレビドラマで僕らがやっていた芝居は、録音機器の性能の問題があり、少し強く言葉を発するのが良いものとされていました。オリザさんの演出は、ボソボソしゃべるようなところがあるのですが、現在はマイクの性能や技術が上がり、普段、会話をするようなボリュームでしゃべっても音が拾えるようになり、オリザさんのメソッドが映画にも使える時代になりました。

――“ボソボソしゃべる”という平田さんの演出はどのような効果があるのでしょうか?

友人と話すときはそんなに大きな声を出さないですよね。それに「同時多発」というのですが、日常生活の中では、1対1で会話をしていても、周りで起きている状況が気になったり、誰かにあいさつされたりして、反応するじゃないですか。その「同時多発」によって生まれる自然な雰囲気をオリザさんは演出されていて、僕はそれにすごく憧れていて、取り入れたいと思っていました。

――ドキュメンタリーでも、この「同時多発」に触れられていて、そこでは決まった台詞を言いつつ、周辺の状況に反応しながら芝居を続けていく練習をしていて、これを「役者に負荷をかける」と表現していました。こちらについてもう少し詳しく教えてください。

ももクロたちは役者ではないので、台詞を言おうという思いが強くなりすぎて、言葉が立ちすぎてしまう。そこで、少し外から負荷をかけてあげると、すごく馴染むんです。それを意識の分散といって、演劇をやる人は皆さんやっていることなのですが、テレビや映画をやってきた僕らは、それを習ったことがなく、以前は知りませんでした。映画をやるようになって、テレビよりは時間があるので、もっと役者さんを演出しようと思うようになり、この10年くらいで僕も取り入れるようになりました。最近だと是枝裕和監督の「海街diary」でも同時多発をやっていて、しかも上手いんですよ。「うわ、やられたー!」って思いました(笑)。この「同時多発」に関しては、日本映画の監督がみんな気づき始めて、いろいろと挑戦しています。これも録音技術が上がったから出来るようになった演出だと思います。

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