演出兼チーフP「爪痕を残したい」ネタ番組『ENGEIグランドスラム』を熱く語る

公開: 更新:

誰もが「おもしろい」と認める、人気と実力を兼ねそろえた芸人だけが登場し、至極の爆笑ネタを披露していくフジテレビのバラエティ番組『ENGEIグランドスラム』。MCにナインティナイン(岡村隆史、矢部浩之)と松岡茉優を迎え、様々なお笑い大会の優勝経験者や、それに匹敵する実績を残してきた選りすぐりの芸人19組がネタを披露し、5月30日に第1弾を放送すると14.3%の高視聴率を獲得した。

7月12日(日)19時の第2弾の放送を前に、演出・チーフプロデューサーの藪木健太郎さんが取材に応じ、番組の見どころや、「一石を投じたい」というお笑い番組にかける熱い思を語ってくれた。出場芸人も23組もチェックだ。

<インタビュー>

――第1弾を振り返って、手応えはいかがですか?

日本一豪華とハードルを上げて番組を企画しましたが、それに見合う、芸人さんたちを集められたと思っています。ご覧いただいた方々にも、良い驚きを与えられたのではないでしょうか。おもしろいかわからない新しい番組は録画に回される風潮がある中、1回目の放送で、これだけ多くの人々にご覧いただけたのは大きな励みになりました。

――大きな期待がかかる第2弾となりますが、どう思われていますか?

今回、MCを担当していただいた松岡さんが、映画撮影で出られないのですが、第3弾ではまた出ていただきます。今回も何かしらのチャンピオンや、それに準ずる方々をお呼びしたので、皆さん忙しくて、スケジュールをどうしても合わせきることができませんでした。逆に言うと、それだけのメンバーがそろっているということだと思います。日曜の19時から22時という地獄のような枠ですが、ブレずに番組を作って第3弾へつなげていきたいと思っています。それに、とても強い裏番組がありますが、超えることはできなくても、彼らに“うかうかしていられない”と思わせられるような爪痕を残したいと思っています。

――賞レースでもない、テレビ用のフォーマットでもない、非情にシンプルなネタ見せ番組にした理由を教えてください。

昨今、ネタ番組が少ない中で良いきっかけになると思っています。この数年、「うつけもん」「オサレもん」を、新しい人が出てくる場所としてやってきたのですが、ある意味で、まっとうなネタ番組ではありませんでした。あえて外れたところを見せてきたので、もう一度、ちゃんとした芸を見せる、色々な賞レースとも違う、“ほかの芸人さんよりウケたい”という原点に立ち戻った場所を作りたかったのです。以前、「爆笑レッドカーペット」をやっていたのですが、扉から芸人さんが出てくるまで、MCが長くしゃべるときもあれば短いときもあって、裏では次の芸人さんは登場のタイミングを知らないまま、その瞬間を待っていました。そのときADが裏で出るタイミングを伝えているのですが、そのときの芸人さんたちの様子を聞くと、「声出していこう」とか結束を深める瞬間が見えるそうです。僕は、同じもネタでも熱が入ればおもしろくなると思っていて、お客さんの前のネタ見せ番組にしているのは、その熱を切り取れるからです。それに、芸人さんはもちろんしっかりネタを披露してくれますが、やっぱり慣れたネタだったり、テレビに慣れたりすると「はい、こんな感じですね」と置きにいくところはある。そこで、どうしたら「俺たちが一番おもしろい」と本気になって貰えるか。ただおもしろいだけじゃない、人が見えるネタ番組にしたいと考えて、今回の番組に行き着きました。

――第1弾の放送を終えて、出演者の方々の反応はいかがでしたか?

フットボールアワーの後藤輝基さんは「もっとスマートに、カッコよくおもしろくて、焦ることなくいきたかった」と言っていました。会場の歓声や熱気がすごくて「俺の声は相方にちゃんと届いているのか?」と心配したそうです。それに、この番組はせり上がりで登場するのですが、舞台に上がるまでお客さんが見えないので緊張感があるんです。裏のたまり場でも、舞台上でネタを披露している芸人さんがウケているのを感じてスイッチが入ったりしているようでした。

――ほかのネタ見せ番組との違いはどのようなところにあるのでしょうか?

お客さんの前に出てネタを披露する番組の場合、実は制作側が演出することはないんです。僕がおもしろいことを作るわけではなく、芸人さんがおもしろくしたものを放送する。
賞レースのように、この番組では何を競うわけではありませんから、僕が何をやるかというと「ここにおもしろいものすべてをぶつけるぞ!」という気持ちに持ってこられる場を作ることです。1回目は、前の芸人さんウケてるから「俺たちもスベれないぞ」といったような、ちょっとした恐怖心のようなものを持ってやっているのが新鮮でした。今回も、いかにして芸人さんたちに本気のスイッチを入れてもらうかを考えて、そのためだけに準備をしています。

――その本気スイッチを入れる大きな要素がスタジオに作られたセットだと思いますが、こちらはどのような思いを持って作られたのでしょうか?

このセットのモデルは吉本興業さんの「なんばグランド花月」です。多くの芸人さんが、「声の反響が良くて、お客さんも見える」と言っていて、あそこでウケるとすごく気持ち良いそうです。そこで、実際に劇場を見学させていただき、芸人さんがどんな状態なのか勉強しました。すると、お客さんが前の人の頭とかぶらないように、席がちょっとずつずれていて段差もある。お客さんがおもしろいと思ったら声に出せるし、その声が舞台上の一点に集中するようになっていました。それらをヒントにセットを制作しました。せり上がりもギリギリまでお客さんを見せないようにして、舞台に立った瞬間に一気に200人の目が自分に向く。そんな緊張する状況を作りたい。そして、お客さんにも“特別な空間に入った”という気持ちになってもらいたかったので、本来は必要ないのですが、ドアと天井を作りました。芸人さんもお客さんも本気になってもらえる場所を作ることで、芸人さんには「持ち時間10分でやってきましたよ」と置きにいくのではなくて、「全力で見せつけてきたぞ!」と、気合いを入れてもらいたいと思っています。ただ、前回はナインティナインも「コントの人たちの登場がカッコ悪い」と言っていたので修正しました(笑)

――出演芸人さんについてはいかがですか?

1回目のときは、どんな番組になるのかわからなかったので、「1回目はちょっと待って……」という芸人さんもいらっしゃいました。番組を見て、番組の持つ“怖さ”を知った上で参加を決めてくれた方もいます。ただ、どんな番組かわからなかったのはお客さんも同じで、関東のテレビにはあまり出ていないけど、関西では確固たる地位を築いている矢野・兵動が舞台に上がってきたとき、スタジオの多くのお客さんが「誰だろう?」という感じで声援はありませんでした。いわゆるアウェーの状態でしたが、ネタを見せて終わりに近づいた頃には爆笑を起こしてくれました。そういうカッコイイ姿を見せてくれたのは嬉しかったです。

――1回目の視聴率についてどのように思っていますか?

嬉しかったのは、数字の特性を見てキッズ、ティーン、F1、M1、M2まで占拠率50%を超えていたことです。F2も30%、F3、M3は土曜ワイド劇場にさすがにかなわなかったですけど、僕らの中に若い人にウケたい。若い世代を中心に上の世代を巻き込んで家族全員に見てもらえるものにしたいという思いが強くあったので、この結果はすごく嬉しいです。この狙いは時代に、さらに言えば大衆に向けたテレビとしては逆こうしているのかもしれないですが、若い人に向けた番組をこれからも作っていきたいと思います。

――2回目の注目芸人を教えてください
チャンピオンクラスの芸人さんたちはもちろんですが、トレンディエンジェル、流れ星、シソンヌの3組を、うまくお茶の間に届けられるかが今後に向けて重要だと思っています。知名度が若手の域ですが、こういう人たちが印象を残せれば、これからの流れが良いものなると思いますし、注目して欲しいです。

――1回目の放送なので知名度はなかったと思うのですが、それでも良い視聴率だったと思います。これを受けて、ネタ見せ番組の需要はあるなと手応えを感じたのでは?

「需要があるな」という感じではなく、「需要があることにしなくちゃ」と思っています。こういう場所は例え、その瞬間には多くの人に求められていなくも、なくてはならない。自分としては「うつけもん」のときから種をまいてきて、それで今回は良いタイミングが巡ってきました。ここからまた一つの山を作っていきたいです

――今後の「ENGEIグランドスラム」について

新たなネタ番組として年間通してやっていこうという中で、それには大きな花火が必要でした。だから1回目は怪我できませんでした(笑)。ただ、今回は裏番組が非情に強いですし、満足のいく数字はたぶん出せないと思います。でも、多くの人に「あの番組やっぱり何かあるよね」という印象を持ってもらいたいですし、その裏番組にも「うかうかしているとやられるぞ」って、勝てずともちゃんと突き刺したい。それで、3回目以降も続けていくことができれば、うまく新しい芸人さんたちを循環させることができると思います。それを進めるための一押しにしたいですね。


<ネタ披露芸人>
【漫才】
海原やすよ
ともこ
おぎやはぎ
COWCOW
タカアンドトシ
千鳥
チュートリアル
トレンディエンジェル
中川家
流れ星
NON STYLE
博多華丸・大吉
爆笑問題
ハマカーン
ますだおかだ
矢野・兵動
笑い飯

【コント】
シソンヌ
東京03
バイきんぐ

【ピン】
桂三度
柳原可奈子

【音ネタ】
テツandトモ

PICK UP