鈴木おさむが語る「恋愛あるある」から考えるオムニバス作品の魅力

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女優の黒木メイサ、佐々木希、戸田恵梨香が出演するスペシャルドラマ『恋愛あるある』(フジテレビ系列、6月24日22:00~)の脚本を手掛けた、放送作家・鈴木おさむが取材に応じた。

この番組は、黒木主演の「社内恋愛あるある」、佐々木主演の「シングルママ恋愛あるある」、戸田主演の「同棲恋愛あるある」のオムニバス3作品によって構成されたスペシャルドラマ。今回、この企画を手掛けたきっかけや、現在の連続ドラマへの思い、オムニバス作品に感じる可能性などをたっぷりと語っていただいた。


――「あるあるモノ」をやろうと思ったきっかけはなんですか?

「ココリコミラクルタイプ」を一緒にやっていた石井浩二プロデューサーと一緒に、ベタなドラマを作ろうという話をしていて、このわかりやすいタイトルを聞いて、すごく良いと思いました。それに「ミラクルタイプ」でも色々な恋愛の形を描いていましたが、僕は女性から恋愛の話を聞いてバラエティにするのが好きで、得意な分野だった。さらに、僕自身が40歳を過ぎて、結婚して、子どもが生まれるというときに、20代の頃とは自分の中で見え方が変わっているのではないかと思い、恋愛コメディに向き合ってみたいと思っていました。石井さんも、バラエティからドラマに異動して「それでも、生きてゆく」(2011年)というバラエティの空気を微塵も感じさせないドラマを撮っていたので、どこかにバラエティで培ってきたモノを出したいと思ったはず。それに、ドラマもバラエティも、今の放送形態がいいのか疑問に思っていました。

――疑問に思っていたこととは?

僕は、テレビ朝日の「合体スペシャル」とかで新しい放送形態にトライしてきましたし、ドラマも本当に1クールで良いのかと本気で考えなきゃいけない時期だと思っています。実家に帰ると現実を突きつけられるのですが、DVDや映画と違って、テレビをちゃんと見ていない。お茶碗を片付けたり、洗濯をしたりしながら見ているんですよね。「ちゃんと見てくれよ」と思うけど、でも、テレビはそれで良いのだと思います。「ミラクルタイプ」も、OLがお風呂あがりに髪を乾かしながら見て寝るとか言いながらやっていました。今回も、お風呂の前後にテレビの前で軽くストレッチしたり、主婦が子どもを寝かしつけたあとに、一息ついたところでお茶でも飲んだりして、「あるある」と共感しながら気軽に見られるモノができたら良いなと思いました。

――どうしてこの3テーマに絞ったのでしょうか?

「社内恋愛あるある」は、多くの人が体験していると思ったので絶対にやった方がいいと考えていました。現在、離婚率が33%で、若い人に至っては2組に1組が離婚している。シングルマザーの「あるある」と生きにくさは共感を得られると思いました。あと、「結婚する前に同棲をした方が良いか、しない方が良いか」という話しは、女性なら誰もがするのかなと。ほかにも結婚式とか2次会とかの案はあったのですが、今回は女性を主役にするというテーマがあったので、この3つになりました。それと、不倫でも良かったのですが、僕のデータでは不倫をテーマにすると旦那さんがチャンネルを変える。作っている以上に見ている側は気まずいみたいなのでやめました(笑)

――今回の物語を書くにあたり、色々な人に話を聞いたりしましたか?

このドラマのために話を聞いてはいないです。でも、僕が特殊な結婚をしているからなのか、恋愛相談されることがすごく多い。そういうこともあり、ドラマには必ず登場人物にアドバイスをする人物が出てくる。その人の言葉で動くこともあれば、ちょっとのヒントをくれるだけのこともある。それが自分自身の違う形だったりするので、見終わったあとで20代と40代では違う感想を持ってもらえると思います。あと、ネットはめちゃくちゃ見ました。例えば“シングルマザー”“あるある”と検索するとすごい量が出てくるんですよ。区役所の応対の悪さとか、どういうことが気まずいとか、ハローワークでこんなこと言われましたとか。でも、脚本を書く上でブレずに書くことができたと思います。

――物語の主人公を全員20代にしたのはどうしてですか?

アラサー、アラフォーの恋愛も考えましたが、最初は20代にしようと思いました。というのも、数年以内にテレビドラマでラブコメブームが来ると思っているんですよ。「アオハライド」や「ストロボ・エッジ」とか、学生恋愛の映画が大ヒットしている。この10年、女性の恋愛漫画から映像化されるブームもあります。それをテレビドラマに望んでいる風潮も感じているけど、11話を恋愛だけでやるのは大変。元彼が突然第6話に出てくるようなことになる(笑)。でも、こういうオムニバスやフジテレビが実験的にやっている土ドラの4話完結とかならできる気がする。きっと今は、視聴層の一番多いF2の視聴率を意識しすぎていて、30代40代が主人公になりがちなのだと思います。だけど、20代の恋愛にすれば、若い人の興味もあるし、上の世代も「こういうこと自分にもあったな」と懐かしんでもらえると感じています。

――主演をイメージしながら執筆したのですか?

僕はあて書きをしていくタイプなのでイメージしました。ただ、プロットを書く段階では、主演よりも「あるある」の人物像をどうしたら共感できるだろうということに重点を置いています。女優さんは綺麗ですけど、あくまで等身大の人たちのアイコン化という感じですよね。戸田さんの相手をムロツヨシさんがやっているのもとても大事なことだと思います。ムロさんには「オレと戸田さんじゃ『恋愛なしなし』でしょ?」と言われたので、「世の男に夢を与えてください」と言いましたが(笑)。そして「社内恋愛あるある」だけは、恥ずかしいくらいのシーンを作ろうと話していました。僕は「キスマイBUSAIKU!?」もやっているのですが、僕はブサイクな姿を見て笑いたいのかなと思っていたら、女性は格好いいシーンを見たがっていることがすごくわかったんです。例えば“壁ドン”て、あれだけ流行って、今やったらギャグになるはずなのに、イケメンがやると「キャー!」って歓声をあげるじゃないですか。そういうドラマが実はあまりないので、「恋愛あるある」では、世の中の女の人が求めている部分が出てくると思います。

――リリー・フランキーさんもナビゲーターとして登場されます。

リリーさんは「稲垣芸術館」という番組で石井さんが初めてレギュラーに起用したんですよね。「ミラクルタイプ」にも出ていただいて、その間に映画「東京タワー」が大ヒットして、収録中に寝ちゃったりするのに大ブレイク(笑)。ミラクルタイプが終わったあたりから、名優として扱われていて驚いていました。ただ、リリーさんは“わかっている人”とでも言うのでしょうか。あの人がナビゲーターをやることで納得できることがあると思っています。というのも、去年の3月に、奥さんの背中にタトゥーを入れていると発表したら、思いがけず炎上して大批判を受けたんです。それですごく落ち込んでいたら、普段メールとかしてこないリリーさんが「おさむさん素晴らしいぞ。取り返しのつかないことは美しい」って。その1行ですべてのモヤモヤが晴れたんですよ。あの人、結婚もしてないのにすごい説得力だと思いました(笑)。

――「あるある」も年代によって変わっていくと思いますが、現在、変わってきたと思うことはなんですか?

肉食系とはよく言ったモノで、今は女の人の方がガツガツしていますよね。それに、会社でも後輩の女性が男性を追い抜いていくなど、女の人が活躍できる時代になりました。これまでの社内恋愛の男が上で女の人が下という構図が崩れて、バリエーションが出てきて“あるある”の幅も広がりました。シングルマザーの仕事にしても内職などをイメージしていたら、今はスマホのワンクリックとかチャットレディとかたくさん出てきて、その一方で詐欺があって、さらにそれを注意するサイトもある。そういう幅が広がっているのも面白いところだと思いました。

――「恋愛あるある」に期待していること

言い方が失礼かもしれないですが、役者さんの発掘もできると思うんです。今回のキャストでも、ムロさんが恋愛ドラマの主役になるのは大抜擢だと思うのですが、そういうことができるのが良いなと思いますね。それに、撮影が3日間だったら出演するよという役者さんもいると思うんですよ。今は、連ドラをやるのが重すぎる部分もありますよね。女優さんとか俳優さんにとってテレビの視聴率がしんどくて、やるのに勇気がいる状況になっています。でも、役者さんも「楽しそう」と思いながら3日間撮影して、テレビですから放送したら人に感想とか言われると思います。それで、テレビドラマって良いなと、役者さんにもう1回思ってもらえたら良いですよね。ただ、今回の『恋愛あるある』が5%だと今の発言はなかったことになるんですが(笑)。でも、これはイケそうな気がするので、なんとかして次に繫げたいです。放送作家をやって23年ですが、本当にテレビ界の次の形をいろんな人たちが生み出さないと本当にヤバイという思いがあります。それに、僕が放送作家として今の時期にフジテレビでドラマの脚本をやらせて頂けるのも、すごく意義があります。フジテレビらしいモノを見たい、そういうモノになると思っています。

――現代の連続ドラマは、どれくらいの“サイズ”が合っていると考えているのでしょうか?

例えば、この間のNHKで放送していた「64(ロクヨン)」は全5話です。1冊の小説は映像化するとき、2時間の映画には入りきらないので前後半にして、5話だと丁度良いなとか。「積木くずし」という大ヒットドラマが昔ありましたが、あの時代は5~6話のドラマや、逆に2クールのドラマがありました。予算の関係は別ですが、そういうサイズのモノがあってもいいですよね。11話をすべて見るというのは、今の時代のサイクルに合ってないのかもしれない。ドラマ界への提言みたいになって嫌ですけど、本当にそれは思うんですよ。あとは、朝ドラが勇気を持って8時15分を8時に変更したじゃないですか。それはとても勇気のある選択だと思いますが、それによって世の中の人たちのサイクルにピタッとハマったと思います。放送時間も21時台のドラマがもしかしたら限界なのかもしれない。今は皆さん遅い時間まで起きているので、22時とか23時の方が良いのかもしれない。今回『恋愛あるある』は1時間半の特番でやりますけれど、1時間半というレギュラーがオムニバスだとハマるかもしれない。昔、フジテレビには19時半から21時のドラマ枠「月曜ドラマランド」というのがありました。もしかしたら1時間半でレギュラーにするのもあるかもしれない。その辺まで含めて考えられたら面白いと思っています。全11話だと、真ん中を飛ばして最終回だけとかできないじゃないですか。今回は見なくても良いやと思われるくらいのドラマを作っても良いのかなって。出演してくれる俳優さんには失礼ですが「この時間にお風呂に入っちゃおう」でもいいと思うんです。テレビってそういうモノですから。

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